2007-08-15

サーカスランド1


 トヨタと言う日本が世界に誇る巨大自動車メーカーがある。
 トヨタの作り出す製品は80点主義と言われ、1つの要素に100点を目指して研ぎ澄ますことにより何らかの要素が60点になってしまうことを、一様に80点を目指すことによって防いでしまうモノ造りをする主義のことである。80点以上の加点要素は一般ユーザーでは満足度として分かりにくい加点要素になってしまい、むしろ、欠けた60点の要素だけが大きくクローズアップされてしまう事を防ぐ、ユーザーレベルと心理を突いたモノ造りテクニックの事だ。
 トヨタに習ったかどうかは知らないが、我らが団長率いるサーカスブランドはさらにその上を目指し、40%主義のモノ造りを展開している。
 これは、新企画のゲームでは固定ファン獲得を目指さなければならない観点から100%ある魅力のうちの40%を搾り出し、残った60%のうちから追尾ゲームを出す時にその40%(全体から見ると16%)を出してまたファンを獲得、さらに追尾ゲームを出す時はまたその40%(全体から見ると6.4%)の魅力を搾り出し、さらに追尾ゲームを出す時はまたその40%(全体から見ると2.56%)を搾り出すと言う無限に魅力を生み出せる方式の事を指す。無限絞り汁。
 新しい魅力があることで飽きることなくゲームを購入することが出来、なおかつ、新要素が5割に達していない事からほんの少しの空腹感を持たせることによって、次の購入意欲を掻き立てることが出来るのだ。
 サーカスのゲームをすると味わうことになるこの空腹感。これはゲームを長く楽しむためのアクセントとなっているのだ。ほら、よく言うじゃないか。空腹は最高のスパイスだと。料理の王道たる技術とトヨタの80点主義と空腹スパイスを掛け合わせた素晴らしい製造手法と褒め称えるべきだろう。
 さらにライターの脳内裏設定を繰り出すことによって、ゲームの魅力100%を振り切って120%に増やす事だって当たり前のようにやってのける。団長に底など無いのだ。
 そんな、ワールドクラスのサーカスが送り出す今回の作品。それがサーカスランド1である。
 サーカスから発売されている「ダ・カーポ」「アリエス」「水夏」「すくみず」などのキャラクターを惜しむことなく繰り出したファン待望のボードゲームが今回のサーカスランド1。
 コンシューマゲーム業界の巨頭スクウェアエニックスですら「いただきストリートPSP」にてファイナルファンタジーやドラゴンクエストの登場人物を題材にしたボードゲームを出しているこのリメイクブームの時代。綺麗なままのあの頃を思い出にひたる事が出来る大人の為のリメイクゲーム。大人のためのゲームを18禁ブランドを看板に掲げるワールドクラスのブランド、サーカスがしないでどうする。サーカスは常に流行に乗り遅れない。
 新時代のOS、Windows Vista が登場するや否や、ゲームプログラムのVistaサポートに追われる所かこれを逆手にとって繰り出すVista対応バージョン。パッケージングだけを変えるという大胆な手法により、Vistaイノベーションの流行の波に乗る事にサーカスは成功している。ハードウェアメーカーですらVista対応にてんやわんやだった今年初頭の時期にサーカスは一介の18禁ブランドながらやって見せたのである。サーカスブランドは常に流行に乗り遅れないのだ。Vistaに流行がきているかどうかはとりあえず置いといて。
 そして、それに加えて名称に「サーカスランド1」と番号を付記する事によって、サーカスの新しいシリーズが始まる事を予感させ、掛け値なしに期待を高めさせてくれる。次のサーカスランド2が発売された時にまったく混同することなく購入できるという初心者にも優しい配慮を忘れることは無い。
 シリーズ物はついつい揃えたくなってしまう複雑なヲタクゴコロを初っ端からくすぐる心憎いばかりの演出に成功している。サーカスは常にエロゲヲタの味方なのです。
 しかしまったくの新しいゲームというわけではなく、ゲームシステム上では誰にでも楽しさを共有できるボードゲームを採用し、ゲーム性にも十分配慮。キャラクターは既に世に広く知れ渡っている自社ブランドキャラクターを惜しむことなく出演させ、ファンにはたまらない仕様となっている。
 つまりこれは、団長の「おめぇらの愛してやまないキャラクターだが、まだ遊び足りねぇだろ?」という心憎いばかりの暖かいプレゼント(ギフト)なのだ。贈り物を頂いたら心ばかりの謝礼を述べることこそすれ、文句など言ってはならないのである。常識的に考えて。
 だから、公式トップページの絵がヤル気なくても、「音夢のCVは安玖深音じゃない。鳥居花音じゃなきゃ嫌だ!」と思っても、「すくみず~フェチになるもん~はハズレだから入れないでくれ。知ったらやりたくなる人に買わせる気ですね」と思っても、「どう考えても挿入歌多すぎ。次なる布石かよ。恐ろしい」と思っても、「いまさらアリエスとか、キャラ汁搾り出すにも程がある」と思っても、「つーか、二次創作(同人)よりオフィシャルサブストーリーのほうが多くないッスか」と思っても、思ってはいけないのである。
 まさに、「逆に考えるんだ」の発想である。
 今回は私の尊敬するナスティ・ボーイことK氏から熱くレビューして欲しいとのご依頼を直々に受け、本気でレビューしようと思ったら前置きが長くなってしまいました。本編に進みます。
 ゲームをスタートさせると、パートナー選択(攻略するヒロインを決める)→名前設定→ボード選択(盤の大きさ)→周回数設定と、ゲームの設定をとんとん拍子に決めていく。
 物語は、ヒロインと主人公が初音島にやってきて初音島ミスコンテストに出場するというのが大まかな導入シーンとなる。
 私が選ぶパートナーはもちろん、名無し(水夏)である。これ以外に選択肢は無い。何の為にサーカスランド1をプレイしているのか、ご一考頂ければ解かると言うもの。そんなん、ゆりしーが出てるからに決まってんじゃん(前説台無し)
 魅力・根性・身体能力・知性の4つのパラメータが最終目標となるミスコンテストに関わるパラメータとなる。よって、これをボードゲーム内のトレーニング等で伸ばしていくのが本道となる。そして肝心のミニシナリオは親密度パラメータを増やすことで進んでいく。ほかに、ボード内のショップで衣装を揃えてパラメータを補正したり、ボードゲーム内でアトラクション物件を持ったり(いたスト的な)、トレーニングに失敗すると溜まるストレスパラメータ、他者を妨害するカード(桃鉄的な)などの要素が絡んでくる。
 こうやって並べてみるとなんだか楽しそうだが、気が狂いそうになるほどつまらないので覚悟した方がいい。むしろボードゲームの存在自体が突っ込み所なわけだが、それだとサーカスランド1の存在意義が失われる厳しい突っ込みとなってしまう。しかしそこは我らが団長。素晴らしい伏線を敷いてくれます……ま、それは最後に。
 さて、ボードゲームのつまらなさを紐解いてみると、こういうことだ。
 妨害カードは1ターン消費するわりに逆転を狙えるような物ではなく、使い道がない。この妨害カード以外で他キャラに絡む要素は無く、最後のコンテストでパラメータ比べとなるだけだ。この時点で複数人数で楽しむボードゲームの良さは失われる。
 アトラクション物件マスは特に使い道が無く、そもそもお金に執着しても特に価値がない。お金が多くても有利にはならない。お金に関する要素はこれで否定される。
 トレーニングマスはミニゲームによってパラメータを上げられるが、ハートのマスに比べて効果が少ない。ミニゲームはこれでもかと言うほど小学生プログラマーレベルなので何も期待しないように。よってトレーニングマスもスルー対象となる。
 「?」マスで出てくるミニクイズは難易度がかなり高く、ゲームをプレイしていても難しい。俺で言うと「D.C.」「水夏」「アリエス」はプレイした事があるが、プレイした事がない「すくみず」や「ガッデーム&ジュテーム」などから出題されると正答率はヒドいことになる。団長信者のみ止まって価値のあるマスだと言えるが、そもそもクイズに正解してもお金しかもらえないので「?」マスもスルー対象となる。
 と言うことで、ボード上で目指すマスはハートのマスだけである。ハートのマスだけを狙ってトレーニングとコミュニケーションを積み重ねれば簡単にクリアが可能。ボードの広さで難易度が表示されるが、実は分岐の多い上級ボードのほうが簡単に勝てる。
 ちゃんとゲームバランス調整してますか団長。ユーザーの興味を引ける要素さえあればなんでもいいとか思っていませんか団長。
 あと、システムについてもう1つ。ボタンや矢印をクリックした際に何も反応が無いのは困る。押した感じがしない。操作系に問題が無くても、人間工学的に扱いづらいと評価される。もともとサーカスのシステムは弱い部分であるが、なんとかして欲しいものだ。
 さて、音夢ルートでの冒頭の杉並のセリフだが、
> 杉並「お前、ミスコン出ねぇか?」
> 主人公「俺、ミスじゃねーもん」
> 杉並「お前の存在自体がミスだろ」
 ……。
 団長……これは深いですよ。あまりにも自虐的なギャグですよ。
 そもそもダ・カーポというゲームに今回の主人公は登場しません。そんな今回の主人公に対して音夢が当たり前のように「兄さん」と呼ぶ違和感すらギャグにしてしまっています。主人公の名前変えてるのに杉並が主人公の事を「朝倉」と呼んだりするしね。
 しかし、この一言はそんな自虐的なギャグでは収まらないと思っています。
 この杉並のセリフは今回のサーカスランド1を端的に表現している一言と言えます。ゲームスタート5分の冒頭シーンで出てきてしまうこの脅威の伏線。ボードゲームに入る前から、このボードゲームに対する伏線を張っているのです。ゲームシステムに対する伏線など、私は初めて見ましたよ。
 ゲームシステムだけにとどまらず、杉並がサーカスランドの主人公に対してこのツッコミを入れている点に着目すれば、主人公はすなわちユーザーの分身であり、
> 杉並「(このゲームを購入した)お前の存在自体がミスだろ」
 と言うツッコミへと昇華されることになります。
 あまりにも奥の深いこの名言。団長には本当に頭が下がる思いです。
 ま、私はゆりしーボイスゲーとして100%楽しんでしまいましたが。団長最高!!!
 サーカスランド2も期待しています。