2012-10-02

WhiteAlbum2

 仲間内は当然、各所で大絶賛のホワイトアルバム2。ネタにしたいけど、ネタバレ要素は許されないゲームらしく、期待が高まる。前作のホワイトアルバムは森川由綺一択だったので、個人的には余り評価の高いゲームではない。まぁ、レベルの高いリーフ作品群の中では、という感じだけど。
 ちなみに、自分は WindowsXP の UMPC でプレイしているので、8GB超のインストール容量は食い過ぎである。WindowsアップデートのTMPファイルとかを整理しないと入らなかった。ゲームで容量を食うのは基本的にムービーとボイスだと思うが、そんなにムービーシーンが多いゲームなのだろうか。

 演出エフェクトが非常に重い。貧スペックの UMPC には辛いゲームである。頻繁に入るアイキャッチが異様に長い。曲と同期して強制的に進められるシナリオテキストの部分では、エフェクトが重すぎてテキストが先に終わってしまう。
 あんまり貧スペックPCでプレイしてはいけないようだ。

 序盤は introductory chapter(以下、icと言う)と言って要するに第1章。プレイすると分かるんだけど、このicを1本のゲームとして先に販売していたリーフはちょっとやりすぎな感がある。分岐も無いし、第2章たる closing chapter(以下、ccと言う)はもっと長大なシナリオになっているし。ただ、リーフの意図か丸戸の意図かは知らんけど、「icをユーザーには思い出として実際に記憶の彼方に飛ばしたかった」のかもしれないね。
 icはicで面白いのだけど、ゲーム性は無いし結末灰色だしで、よくまぁ1本のゲームとして販売したもんだと思ったわ。体験版にしちゃうと2年も空けられないのかもしれんが…。

 icはccの前提でありながら、icを前提にするだけでccは単独で物語が始まり、終わる。つまり、icで起こった灰色決着の問題はccで解決していない。

 相変わらず選択肢が辛い。「本当はこの選択肢を選びたくないのだけど、そうしないとクリア出来ない」っつー嫌らしさ。

 立ち絵の表情パターンがあまりにも少ない。表情パターンが記号化している。もっと細かく描けるはずだし、描き分けられるはずだ。リーフなら間違いなく出来る。間違いなく出来ると思うだけに残念だった。

 春希は病気。個人的に、男が浮気性なのは別に問題ないと思うのだが、春希は自分で望んで浮気したくせにその罪悪感に苛まれてどんどん深みにハマっていくのが正直見ていられないしイラつく。歯止めが効かない、ブレーキが壊れてると表現するのはこのためである。春希の性格設定は理詰めの効率厨のクセに、男女関係になるとまるでダメ。間違った優しさを振りかざす極悪非道の鬼畜。本当に滅びて、早く。

 かずさは春希の初恋の相手。
 初恋の相手を今でも覚えているだろうか? 男性ならば覚えている人がほとんどだろう。男の恋愛は「名前を付けて保存」、女の恋愛は「上書き保存」と言われるように、男は心のフォルダに恋愛ファイルがいくつも存在する。日付順にソートしたら先頭に来る目立つファイルが初恋だ。世の中の男と呼ばれる人種は初恋の相手を大概覚えている。
 初恋の相手とは、男にとってそれだけ特別な存在(ヴェルタースオリジナル)なのだ。WA2ではかずさをそのような特別な存在としてより誇張して描かれている。

 雪菜は成長するメインヒロイン。
 初恋の相手という理屈じゃないかずさに対抗できるよう、容姿・性格・家族に至るまで完全無欠の存在として描かれている。「こんなイイコいないよ」を地で行くメインヒロイン。あまりにもイイコなので、おれら(ユーザー)も含め作中の友人たちも、雪菜を「現行彼女にして暫定彼女」という曖昧な存在にしている春希をぬっころしたくなるのは仕様です。
 ccにおける3人のサブヒロインのシナリオで雪菜の対応を多面的に見せつけられ、雪菜の評価はもりもり上がっていく。icの頃は特に評価が高い訳でもなく、なんつーか怖い女だった。
 まったく成長の跡が見えない主人公に対して、雪菜はic、cc、codaと別の人間かと思えるほどの人間的成長を遂げている。codaの雪菜は本当に魅力的で強い人間になっている。
 ccをプレイするだけでは雪菜しかありえないと思うほど雪菜の評価は上がるはず。なのだが、codaで再登場するかずさはicの頃のままなのに、初恋の相手は色褪せることなく神格化していたのだった。そんな神格化した思い出と戦うには、雪菜のような完璧超人が必要なのだ。

 小春、麻理、千晶は、かずさを因数分解して生み出された中ボス。
 成長段階にあるccの雪菜ではまだかずさを倒す事が出来ないので、中ボスであるこいつらが相手します的な。中ボスであるこいつらに負けることもあるけど、それを倒せて初めてラスボスへの挑戦権が与えられるのだ。
 小春と千晶のシナリオでは、icの大一番である付属祭のライブにもスポットが当てられる。一番大切な自分の綺麗な思い出を他者の目を通して見るとこうなるのだと痛感させられる。そして、かずさの影響力を知り、伏線となる。千晶シナリオで伏線が貼られ、codaで種明かしされるファーストキス。神は思い出だけで戦う事が出来るのだ。
 麻理はテキストにおいて「かずさの面影がある」とはっきりと言及している。かずさを意識しないことは無いだろう。
 小春はテキストでは表現されることはないが、1枚絵がまるでかずさである。重要なシーンになって1枚絵が出てくるたびに、かずさを意識しないことは無いだろう。
 千晶は演劇自体がすでにダブルヒロインの物語である。千晶は、ダブルヒロインの物語を演じるための演出によって生み出されたといっても過言ではないレベルの悲しいキャラ付けとシナリオになっている。演者という劣化コピーがオリジナルに勝てる要素はない。千晶シナリオで一番印象的だったのは千晶の演技によるかずさだった。千晶ではなくかずさが一番印象的だったと言わざるをえない。
 そんなかずさの劣化コピーたちと戦う雪菜は、プレイヤーの中でもりもり評価が上がり、雪菜の人間的成長に伴って、プレイヤーの雪菜に対する印象も成長していく。

 つーことで俺もキャラ的には雪菜がイチ推しになったのだが、シナリオはかずさルートの方が面白かった。雪菜ルートは飽きること無くシナリオが展開していって泣き所も各所にあるし、一気に涙腺にクる展開じゃないけど降り積もる雪のように涙はホロホロと降り積もるものだった。
 たいしてかずさルート。ゲーム開始から5年間もかけて成長してきた主人公春希の足跡が、春希の築き上げてきた世界が、たった2週間で一気に吹き飛んでいく。春希ザマァァァァm9(^Д^)
 ホワイトアルバム2というタイトルを見て、前作ホワイトアルバムが人間ドラマが主として描かれていた点を鑑みると、かずさシナリオこそホワイトアルバムなんだろうと、ゲーム内期間にして5年もかけたゲームらしいと、そう思うのだ。
 雪菜ルートは、ゲームの都合上フラれ続ける運命にある雪菜に対してのご褒美シナリオなのではないか。雪菜ルートは一見良かったね良かったねで終わる。息の詰まるような幸せな世界だ。しかしだなぁ……いくらキスもSEXも先を越されたからといって、かずさを自分と春希でキレート化するのは春希にとってもかずさにとっても、あまりにも残酷であろう。少なくとも俺は嫌だわw
 結局、主人公の思いや行動とは別次元の所で、雪菜が勝てば全てが雪菜色の世界に、かずさが勝てば全てがかずさ色の世界に根本から塗り替えられていく。もちろん春希も。ゲームのツインヒロインはかくあるべし。
 「初恋は叶わない」とはよく聞くジンクスだ。それを叶えるつもりであれば、ジンクスに逆らうのであれば。これぐらいの犠牲は支払うべきかと、そう考えさせられた名作だった。

 さて総評。
 シナリオはよく考えられていて、ちゃんと読んでると平気で50時間以上かかると思うシナリオ量なのに、飽きること無く読み進めることが出来る。運命も奇跡も希薄な現実的な設定で日々が綴られているのに、徹夜でプレイするほどハマる。稀代の名作と言っていい。
 ic終盤で裏切ってしまった雪菜をccに至るまで手放さない理由が無いとか、かずさルートで糾弾される際に気持ち良く書きすぎた感があって、勢いがあるがセリフの煮込み不足を感じたとか、細かい気がかりはある。けど、そんなのは瑣末な事だろう。
 グラフィックもさすがに美麗で秀逸。なのだが、立ち絵パターンが致命的に不足している。日常描写を主とするシナリオなので、もっと細かく表情を描写して欲しかった。
 音楽は懐かしさを感じながら素晴らしい新しいと思える秀逸なレベル。何度も弾かれ、歌われる2曲(ホワイトアルバムと届かない恋)は特にユーザーの心に刻み込まれる。After All や時の魔法もグッと来ます。時の魔法は新曲のくせにすぐに耳に馴染んで懐かしさを感じるとか意味がわからない。
 システムは可もなく不可もなく。容量食い過ぎなのと、スキップが遅い(選択肢と選択肢の間が非常に長い事が考慮されていない)所はやや減点か。
 色々と気になる所は書いたけど、総じて見れば年度を代表するどころか数年来の名作と言える。

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